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「原子力文化」2003年10月号 対談 藤原正彦氏+ヒサクニヒコ氏

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それぞれの文化の花を、互いに尊重し、育てなければ

21世紀、ローカリズムの時代

いま、わが国は政治、外交、経済、教育など、
あらゆる分野で危機に面していると言われています。
それらに対処する判断力を、一体どのように培えばよいのでしょうか。
今後の日本を支える真のエリートを育てるにはどうすべきなのか、
数学者の藤原正彦さんと漫画家のヒサクニヒコさんに、お話し合い願いました。


ヒサクニヒコ

1944年 東京生まれ
漫画家
72年に第18回文春漫画賞受賞
恐竜から玩具、野生動物など、
様々な分野に精通
TBSラジオ「全国こども相談室」の回答者も
務めている
「恐竜の世界」「世界恐竜図鑑」
「サファリへ行こう」など著書多数

藤原正彦
(ふじわら・まさひこ)

1943年 旧満州新京生まれ
数学者、お茶の水女子大学教授。
専門は数論
78年、『若き数学者のアメリカ』を発表後
独自の随筆スタイルを確立し
『遥かなるケンブリッジ』『数学者の言葉では』
『父の威厳 数学者の意地』
『心は孤独な数学者』
『祖国とは国語』など、著書多数

ヒサ 藤原先生は、数学には国語が必要だとおっしゃっているので、おお、もしかしたら数学の先生でも話のわかる人がいるんじゃないかと思って、今日は半分どきどきしながら来たんです(笑)。
藤原 数学の先生は、論理的に考えれば解けるとか、うそつきますから。
ヒサ あれはうそなんですか。
藤原 うそです。論理的に考えたら解けないですね。数学で一番重要なのは美的感受性なんです。これが実は数学だけじゃなくて、自然科学者になる人は絶対に美的感受性が必要。偏差値や知能指数なんかは必要ないんですね。
 あらゆる自然科学で日本は数学が飛び抜けていい。すべての学芸で日本が一番強いのは文学なんですね。なぜ文学と数学が世界に威張れるのか。文学は奈良時代の昔からトップですが、数学は江戸時代から世界の第一線。なぜかというと、その2つが一番美的感受性につながっているんですよね。だから、日本人というのは非常にそういう点で独創的というか…。
ヒサ それは数学を解くときのひらめきみたいなものなんですか。
藤原 結局、数学というのは高い山の頂にある美しい花を採りに行くようなものですから、その美しさに感動しないと、採りに行く元気が出てこないんですね。
ヒサ 山登りというのはそうですよね。一歩一歩行けばいいけれども、嫌だと思ったら誰も登らないですものね。
藤原 そうですよ。美しい花に感動するかどうかです。
ヒサ 先生が子供の頃、数学の問題を読み終わった時には答えがわかっちゃったというのは、やっぱりひらめきみたいなものですか。
藤原 そうですね。10年ぐらい前に、将棋の名人と対談したら、彼もほとんどの局面で、大体5秒以内で最善手がわかると言うんですね。時々1時間も考えているのは何やっているんだと聞いたら、その手の先に何か落とし穴があるかないかチェックしたり、あるいはその手よりももっといい手がないか頑張るのだと。
 だけれども、結局は1時間頑張っても、5秒以内に気がついた手が一番いいんだと言っていました。だから、局面を見て二手思い浮かぶ人はもう名人になれないんだそうです。本当の名人は一手しか思い浮かばないらしい。5秒以内に浮かぶということは、論理的に考えていないわけですよ。だから、それは美的感覚というか、調和感、直感ですよね。どの分野でも多分同じなんですね。

一番最初に初等教育の国語を建て直さなければならない

ヒサ 今の子どもたちも随分いろいろな問題が起きたりしてますが、すぐ子ども全体の問題として語っちゃいますよね。17歳が何か起こすと、17歳全部がだめというように。
藤原 子どもというか、今、日本人は65歳以下は総崩れです。戦後教育どっぷりですから、だめです。旧制高校出身の人はもう75歳以上なんですね。その人たちが15年前に引退しちゃったんですよ。その頃から世の中がおかしくなって、不況は10年前からでしょう。やっぱり彼らの引退というのが大きかったんですね。
ヒサ 戦後の経済的な大発展をした原動力というのは、彼らなんですよね。
藤原 辛うじて残っていた人たち、例えば旧制中学の卒業生ぐらいまではよかったわけですから、すべて戦前の教育を受けた人たちですね。
ヒサ でも、彼らが国のために一生懸命よかれと思ってやっている間に、足下の子どもたちの教育制度が、全く空洞化しちゃったわけですね。
藤原 教育制度の改革は今からでもいい方向にできれば、20年後、30年後だんだんとよくなりますけれども、現状はほとんど改悪でしょう。
ヒサ 脳の平均化というか、低い方のレベルに合わせて、出るものをなくして、それが平等だという悪しき平等主義ですよね。
藤原 改革する能力を失ったというのが、今日本で一番問題なんですよ。
ヒサ じゃ、どうしたらいいんでしょうか。
藤原 政治も経済も社会も人心も、みんな荒廃してきちゃった。これを建て直すには、やはり国民をつくり直すしかないですね。国家というのは国民からできているわけですから。今の65歳以下はもうだめなんですね、子どもも含めて。したがって、新しい、今から生まれてくる子どもたちが学校へ行くときに、いい教育を与える以外に日本は建て直せない。それでは、教育のどこを建て直すか。
 答えは何かといったら、初等教育の国語なんですね。それが一番最初にしなければならない、すべての中心なんです。
ヒサ それが先生のおっしゃる国語なんですね。
藤原 これをみんなはわからないんですね。私みたいな数学者というのは、本質以外に興味ないんですよ。だから、糸をたどって一番最後の本質は何かというと、小学校の国語なんですね。国語は今、実質週3、4時間といわれていますから、これを10時間ぐらいにして、1日2時間ずつやって、本を読ませなきゃいけないんですね。
ヒサ 本質があれば、森羅万象に対応できるわけですよね。
藤原 まず国語を固めて、漢字を読めるようにして、本を読むようにする。そうすると、自然に情緒は身についてきますよね。
ヒサ だって、本の中には、日本人の先輩たち、翻訳も含めて、世界中のいろんな先輩たちのありとあらゆる感性、知識、いろんなものが全部詰まっているわけですからね。
藤原 今は文部科学省などは体験学習が重要といいますね。確かに、体験は重要ですけれども、果たしてどれほどの体験ができるか。一人の人間が一生かかってもほんのちょっとしかできない。どうしても豊富な体験をするには時空を超えないといけない。その唯一の方法は活字なんですね。
 したがって、読書をさせないといけない。そのためには国語教育をびしっとやって、小学校のうちに漢字をたたき込む。漢字をたたき込む場合には、強制的かつ画一的で全く構わないんですね。張り倒してでもいいからたたき込む。そして漢字に対するおそれをなくして、本を読ませる。本を読ませるのも、感想文を書くとか下らないことをさせないで、どんな本でもいいから読ませる、本を好きな子にする、それが国語教育の目標なんですね。
 後は自然に、本を読んでいれば論理的思考もついてくるし、いろいろな情緒、もののあわれとか美しいものに感動する力や、他人の不幸に対する敏感さなど、諸々の情緒が自然についてきます。そういう人間が育つと、その子たちが大人になって、いい親になって、いい先生になる。そうすると、いい学校教育、いい家庭教育ができる。そして、我々の孫の世代が日本を再生してくれるんですね。
ヒサ ただ、一番の問題は、情緒とか感性など、その子どもたちが身に付けた、育てるべきものを先生たちがどう評価していくか、評価基準がないわけですね。今は画一的な試験でしょう。
藤原 評価はする必要ないんですね。ただ、本を読ませるようにする。例えば大学受験なんかで、下らない暗記物の試験をするより、今までどんな本を読んだかというリストを出させて、それについて面接試験で聞けば、うそつけませんからね。それでいっぱい読んだ人を入れてやるとか、そういうようなことをすれば、試験制度が変わってきますよ。
 ただ読んだことを評価すればいい。内容によって得たものを評価する能力は、今の親も先生もありませんから。
ヒサ その親や先生はどうやったら育てていけるんですか。
藤原 いや、すぐには無理です。あきらめるしかない。今の子どもたちを少しでもよい親と先生にして、日本の再生は孫の世代ですね。でも、今の教育をいい教育にしないと、孫の世代もだめになりますから、ひ孫まで待つことになる。そうすると、70年、80年は再生しないですね。
 日本民族は非常に優秀な独創的な民族ですから、ちゃんとした教育さえすれば必ず再生できます。一言で言うと、ほとんど戦前の教育に戻せばいい。その中から軍国主義だけ除けばいい。
 初等教育はまず家族愛、郷土愛、それから祖国愛、その3つまででいいんです。中高になってもう少し考える力がついて、初めて人類愛というものにいくわけですね。
ヒサ まず自分を確立してから表を見れば、何でも見えてくるわけですね。
藤原 そう、順序があるのです。まず家族愛、次に郷土愛、それから祖国愛、初等教育はそこまでですね。そして中高で人類愛が入ってくる。前の3つがないと、人類愛というのは不可能なんですね。いきなり地球市民だなんて言っても、そんなものは世界に出て誰も相手にしてくれません。

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