祖国とは国語
藤原正彦氏
(ふじわら・まさひこ)
1943年 旧満州新京生まれ
数学者、お茶の水女子大学教授。
専門は数論
78年、『若き数学者のアメリカ』を発表後
独自の随筆スタイルを確立し
『遥かなるケンブリッジ』『数学者の言葉では』
『父の威厳 数学者の意地』
『心は孤独な数学者』
『祖国とは国語』など、著書多数
祖国とは国語
藤原正彦著
バラエティーに富んだ随筆
著者の母親・藤原ていの名作に『流れる星は生きている』という、旧満州から引き揚げてきた体験記がある。著者はこの満州新京の生まれで、ソ連が侵攻してきたとき、まだ二歳だったという。それから半世紀の後、母と子どもたちも入れて親子三代で生まれ故郷を訪れた。
その旅行記「満州再訪問」で、著者は、この地こそ「藤原家の原点なんだ」と子どもたちに語る。父親は『流れる星は生きている』に刺激されて、作家・新田次郎になり、著者もまた両親の影響でエッセイストになった。
本書は、数学者である著者が、この三年ほどの間に書いた「満州再訪問」をはじめとするエッセーを収録したものである。
家族のユーモアあふれる情景、アメリカやイギリスでの留学体験、数学的思考、教育問題への提言など、バラエティーに富んでいる。話題はさまざまだが、一つの軸のようなものがあって、読み応えがある。
それは強いて言えば、諏訪高島藩の下級武士を先祖に持った藤原家の家風のようなものであり、父から子へと引き継がれてきた気質のようなものである。
父・新田次郎の価値観の中心にあったのは、武士道であったようだと著者はいう。卑怯(ひきょう)を最も憎み、勇気と忍耐を教えた。
それは著者にとって押し付けられたものだったが、それで良かったという。というのも、反発するにせよ、新しいものを探すにせよ、何かはっきりした価値観を与えられない限り、子どもは動きようがないからだ。
政策への提言では、一貫して、小学校教育での国語の重要性を強調している。「一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数」と言うほどだ。これも父親譲りを連想させる。
国の危機を救うのは教育だが、その中で最も重要なのが国語だという。それはすべての知的活動の基礎であり、高次元の情緒を育てるばかりでなく、「祖国は国語である」と断言する。
こうした主張の背景には、過去の知的遺産が生かされていない、今日の教育の現実がある。文化も伝統も言葉にある、という指摘は問題の本質をよく突いている。
(講談社 本体一、五〇〇円)
増子耕一
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